文筆の焦点は、
――修辞
か、
――通知
かのどちらかにあります。
ここでいう「修辞」とは――
表現の趣向や構成の工夫などです。
また、「通知」とは――
情報の伝達や意思の表明などです。
恋文を例にとりましょう。
この例では――
修辞は、いかに読み手の気を惹くか、あるいは心を動かすかが焦点です。
一方――
通知は、いかに書き手の恋心を読み手に過不足なく伝えるかが焦点です。
修辞と通知とは、たいていは共存しません。
修辞に徹するなら――
通知は控えたほうがよく――
通知に徹するなら――
修辞は控えたほうがよいのです。
恋文についていえば――
もし、修辞に徹するなら――
自分の恋心は直接的には表明しないほうがよいでしょう。
――今の私には、自分の体調よりも、あなたのお体の具合のほうが、ずっと大切です。
と書き表すほうがよいでしょう。
また――
もし、通知に徹するなら――
言辞的な技巧を下手に凝らそうとしないほうがよいでしょう。
――私は、あなたに恋愛感情を抱いています。お願いです。どうか私と交際して下さい。
と書き表すほうがよいでしょう。
多くの場合には――
たぶん、修辞に徹した恋文のほうが好ましく感じられますが――
恋愛に絶対はありませんから――
場合によっては――
通知に徹した恋文のほうが好ましく感じられるでしょう。
よくないのは――
中途半端です。
修辞にも通知にも徹しきれていない恋文――
例えば、
――あなたのことを、いっそ食べてしまいたいと思うくらいに恋しく思っている毎日です。
などは最悪です。