マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

人間を2つに分ける(8)

 カルロス・ゴーンさんの逮捕劇で――
 ずいぶん話がそれました。

 この辺で、

 ――人間を2つに分ける

 の話に戻りましょう。

 ……

 ……

 人間を心と体とに分けるという発想は――
 一見ごく当たり前の分け方です。

 ――バランスのとれた絶妙な分け方である。

 とみなす向きも少なくないでしょう。

 が――

 ……

 ……

 よく考えたら――

 実は――
 けっこう歪(いびつ)な分け方なのですよね。

 ……

 ……

 英語で、

 ――Things

 といったら、

 ――物(もの)、事(こと)

 です。

 むかし学校で習った方も多いと思いますが――

 これら「物」と「事」とは――
 日本語では2語に分けますが――
 英語では1語なのですよね。

 いま学校で習っているところだという方も――
 きっとあるでしょう。

 ……

 ……

 ところで――

 日本語の「物」とは――
 いったい何でしょうか。

 あるいは――
 日本語の「事」とは――
 いったい何でしょうか。

 ……

 ……

 簡単にいってしまえば、

 ――物

 とは、

 ――物体、物品

 です。

 ――事

 とは、

 ――事象、事態

 です。

 この枠組みを「人間」に当てはめてみたら――
 どうでしょうか。

 ……

 ……

 一見、

 ――体

 が、

 ――人間に関わる物

 であり、

 ――心

 が、

 ――人間に関わる事

 であるように感じられるのですが――

 実際には――
 そうではありません。

 体は――
 おそらくは、“人間に関わる物”の全部および“人間に関わる事”の大部分です。

 そして――
 心は――
 おそらくは、“人間に関わる事”のごく一部分です。

 ……

 ……

 どういうことか――

 ……

 ……

 心は人間の精神活動ですが――

 人間の活動は――
 精神活動だけではありませんよね。

 摂食、消化・吸収、排泄、呼吸など――
 もろもろの生理活動も、すべて――
 人間の活動です。

 つまり――
 人間を物と事との枠組みでみるときに、

 ――心と体

 という分け方は――
 けっこう偏っているのですね。

 この“偏り”は――
 例えば、英語のように、「物」も「事」も「things」1語で済ませてしまうような言語のもとでは――
 おそらく、まったく気にされません。

 日本語のように、「物」と「事」とを別語で扱う言語のもとで初めて――
 気にされるのです。

 ……

 ……

 僕は――
 10代の頃、

 ――日本文化の底流には「西欧文化は心を重視しすぎている」との懸念が沈殿している。

 との考え方を習いました。

 その真偽は、ともかくとして――

 もし、そんな考え方が本当に成り立つとしたら――

 その一因は――
 人間を物と事との枠組みでみるときの、

 ――心と体

 の“偏り”に――
 求めることができるでしょう。