マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

後鳥羽上皇のこと(16)

 後鳥羽上皇について――
 ここ2週間ほどの『道草日記』で述べたきたことを――

 以下に――
 簡単にまとめます。

 ……

 ……

 わずか3歳で三種の神器を欠いた不完全な即位をしたことで――
 思春期の頃には漠然とした劣等感を抱いたものの――

 16歳で朝廷の実権を握り――
 以後、文武両道に励み――
 望みさえすれば何でもできるようになることを示してみせ、廷臣たちを心服させることで――
 不完全な即位がもたらした劣等感を一度は鎮めたけれども――

 やがて――
 自分の思い通りにならない朝廷の外の政権――鎌倉幕府――の存在感が強く意識されるようになり――
 その存在感が、思春期の頃の劣等感を呼び覚ましたところへ――

 大内裏の焼失という思わぬ事件に遭遇し――
 鬱をきたし――
 その鬱の反動として、軽躁をきたし――

 その軽躁の“異常な心理”に突き動かされるようにして――
 承久の乱を半ば衝動的に起こすと決めたものの――

 その乱は――
 一人相撲の様相を呈していて――

 その“一人相撲”に敗れた後鳥羽上皇島流しにされ――
 その後、二度と歴史の表舞台に立つことはなかった――

 そんなストーリーが紡げそうです。

 それは、

 ――再起不能の失敗

 のストーリーといってよいでしょう。

 ……

 ……

 もちろん――

 このストーリーは――
 史学者ではない僕の憶測を数多く含んでいます。

 よって――
 少なくとも史学的には――
 何ら意義や価値を見出せない仮説です。

 が――
 そのことは度外視をして――

 あえて――
 この仮説を踏まえて考えてみるとしたら――

 僕らは――
 後鳥羽上皇の人生から、何を学びとることができるでしょうか。

 つまり、

 ――後鳥羽上皇の“再起不能の失敗”から学べることは何か。

 という問題です。

 ……

 ……

 一言でいえば、

 ――セルフ・チェックには限界がある。

 ということです。

 自我の理性によって――そして、それのみによって――
 自分の発言や行動を常に監視し、かつ制御し続けていく――

 そういうことは――
 後鳥羽上皇ほどの知的能力の高さをもってしても――
 ほぼ不可能である――

 そういうことです。

 ……

 ……

 では――

 どうしたらよいのか――

 ……

 ……

 自分で監視・制御していくことが不可能であれば――
 他者にやってもらうしかありませんね。

 他者によって――
 自分の発言や行動を常に監視し、かつ制御し続けてもらう――

 ……

 ……

 この場合の、

 ――他者

 とは――

 もちろん――
 どんな他者でもよいのではありません。

 自分のことを信頼していて、かつ、自分が信頼できる他者――
 たとえ耳の痛いことであっても躊躇をせずに伝えてくれる他者――
 そういう他者です。

 それは――

 人によっては――
 親であり――
 兄弟姉妹であり――
 配偶者であり――
 友人であり――
 上司・同僚・部下であるでしょう。

 つまり――
 そういう意味では――
 誰でもよいのです。

 ただ――
 必要とあらば――
 たとえ、どんなに耳の痛いことであっても、躊躇をせずに伝えてくれる――
 そんな信頼感が十分に醸成されている――

 そういう人間関係を一つでも多く構築し、維持していくこと――

 それが、いかに大切かを――
 後鳥羽上皇の再起不能の失敗は暗示していると――
 僕には思えます。

 ……

 ……

 後鳥羽上皇に限っていえば――

 その生い立ちを振り返ってみるに――

 ――たとえ、どんなに耳の痛いことであっても、躊躇をせずに伝えてくれる――

 そんな信頼感に溢れた人間関係を構築・維持していくことは――
 かなり難しかったと感じます。

 わずか3歳で天皇になったという事実――
 16歳で朝廷の実権を握り、以後、文武両道に通じた“治天の君”として、朝廷に君臨し続けた経過――

 これらを考えたときに――

 信頼感に溢れた人間関係に恵まれる機会が後鳥羽上皇に、どれほどあったといえるでしょうか。

 承久の乱を起こすと決めた後鳥羽上皇に翻意を迫れる人物が、どれほどいたといえるでしょうか。

 そこに――
 後鳥羽上皇の“再起不能の失敗”の根源があるように思います。