以前、人から借りて読んだ本を、今度、仕事で使いそうな気配になってきたので、結局、買うことにしました。
すでに読み終わっている本を書店で買う不思議――
しかも、確実に仕事で使うと決まったわけではないのですが……。
*
学生時代、大学の教授に、
――きみは本を借りない主義なのかね。
と、いわれたことがあります。
その教授に薦められた本を、その場で借り受けることができたにもかかわらず――
そうはせずに、題名や出版社名などをメモするだけに、とどめたからでした。
――本を借りない主義
とか、
――本を買わない主義
とかいうものが、本当に存在するのかどうかはわかりません。
が、もし、存在するのだとしたら、僕は間違いなく「本を借りない主義」ですね。
(一度、読んだ本は、自分が書くときに使うかもしれないから――)
との思いが強いのです。
「使う」というのは、例えば引用するということです。
その際に、本が手元にないのでは、かなり不便ですよね。
書くときというのは、たいてい突発的に訪れますから――
そうした思いは、二十歳を過ぎた頃から強くなり始めました。
今にして思えば、すでに、その頃から、文筆一本に絞って生きていく準備に入っていたのですね。
本人には自覚が足りなかったようですが……。
自分のことは自分が一番わからないものです。