百人一首で最も好きな歌を挙げろといわれたら、これを挙げます。
めぐり逢ひて見しやそれともわかぬ間に
雲隠れにし夜半(よは)の月かな
――めぐりあって、かつてみたあの月かどうかもわからない間に、雲に隠れてしまった夜中の月であることよ。
紫式部の歌です。
新古今集詞書によれば――
幼なじみの友人が慌ただしく訪れ、慌ただしく帰っていったことを歌ったものです(『旺文社古語辞典』1988年)
つまり、女性である紫式部が、同性の幼なじみを詠んだ歌――ということです。
小学校のときに、そう習い、そういうものだと思っていましたが、
(いやいや、ちょっと待てよ)
と思うようになりました。
二十歳を過ぎた頃からです。
(これって、男歌じゃないの?)
と――
「夜半の月」は、男からみた女性の顔でしょう。
少なくとも、そうみたほうが趣がある。
――だから、紫式部は男だった。
とか、
――レズだった。
とか、いいたいのではなく、
――紫式部が自身を男性になぞらえて詠んだ虚構の歌だった。
と、いいたいのです。
――かつて逢瀬を重ねたあの女(ひと)だと確認することなく別れてしまったよ。もう二度とお近づきにはなれないのだろうな。
そういう歌ではなかったかと思うのです。
何しろ『源氏物語』の作者ですからね。
この程度の男心をよむのは朝飯前だったはず――
――めぐり逢ひて
と、字余りで始まるところもいい。
五七五七七が崩されている歌で、これほどシックリくる歌も珍しいのではないかと、僕個人は思います。
もちろん――
以上は学問的に全く根拠のない推測です。
こうだったらいいなという願望です。