マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

英語下手の負の鎖

 日本人の学者は英語下手ですね。
 難しい言葉は御存じなのに、なぜか英語自体は下手なのです。
 とくに有名大学出身の教授クラスの学者に多いようですよ。

 なぜ有名大学の教授に多いのでしょうか。

 多分ゆえのないことではありません。

     *

 しばしば指摘されるように――
 日本人が英語を学ぶ目的は2つあります。

 1つは日本語を解さない人々とコミュニケーションをとるため――もう1つは英語を通し、日本語の体系を深く知るため――です。

 この2つは一見、独立しているようですが、実際は違います。
 むしろ、独立とみなすから英語下手になるのです。

 たしかに、英語を読んでいても、聞いていても、書いていても、話していても――
 日本語の体系にまで思いがいくことは稀でしょう。

 が、英語でビビッドなコミュニケーションをとるとき――
 僕らは日頃の自分の思考のクセを思い知ります。

 日本人の思考のクセは、かなりの部分、日本語のクセに依っているのですね。

 主語の省略が典型でしょう。
 僕が英語でコミュニケーションをとるときに痛切に感じるのは、「it」や「they」で言及するべきときに、なかなかスムーズに言及できない――ということです。
「it」や「they」は、日本語では省略されることが、ほとんどだからです。

 面白いことに――
 単に話したり書いたりする分には、そうでもないのですね。割とスムーズに「it」や「they」が出てきたりする。

 が、目の前の人とコミュニケーションをとっているときはダメなのです。
(うわあ、出てこねえ!)
 となってしまう。

 言語がコミュニケーションの道具であることの傍証といえます。

 そうです。
 決して受験教科の対象ではないのですね。

 単に話したり書いたりするところまでは、受験英語の恩恵かもしれません。
 目の前に人がいないときに、「it」や「they」がスムーズに出てくるのは受験英語の恩恵でしょう。
 が、目の前に人がいるときでも、スムーズに出てくるには、コミュニケーションの場数が必要です。
 受験英語ではダメなのですね。

 有名大学の教授に英語下手が多いのは、このためでしょう。
 受験英語に自信があるから、コミュニケーションの大切さに気付かないのかもしれません。

 教授がそうだから、学生もそうなってしまう――

 英語下手の負の鎖は、どこかで断ち切らないといけませんね。