中学の頃――
僕はボーイ・スカウトのメンバーだった。
毎年、夏になると、指導者や仲間たちと一緒に、毎週のように野営していた。
野営というのは、テント暮らしである。
疲れきった体をテントの底に沈める心地よさが、印象に残った。
あるとき――野宿をすることになった。テントの外で寝るのである。
寝袋だけを持ち出し、草原に横になった。
天気の良い夜だった。
寝ながらにして星空を眺めることができた。
(こんなもんか)
と思った。
それから5、6年がたって――
この体験を基に、小説を書いた。
――星空を眺めながら眠ることが、どんなに素敵な贅沢かも知らないで――
みたいな一文を挟んだ。
実際は、そんな風に思ってはいなかった。
――素敵な贅沢――
は、ちょっと言いすぎだった。
が、小説なので、
(ちょうどいいだろう)
と思った。
小説に本当のことは書きすぎないほうがいい。
それから10年以上がたって――
今は本当に思っている――
――最高に素敵な贅沢だった。
と――
あの夏の夜に、皆で草原に寝たことを、僕は小説には書けぬ。
どうしても書くのなら、随筆だろう。
*
寝苦しい夜に、ふと、そんなことを思った。