元気なお年寄りが急に老け込む時期――というのがある。
例えば、80歳頃までは壮年の印象が強かったのに、83、4をすぎて、急に体が小さくなって弱々しくなった印象を受けることがある。
老いとは、徐々にやってくるものではないらしい。
そういえば、
――病は気から――
という。
老いも、そうなのかもしれぬ。
80をすぎれば誰だって弱気になるに違いない。どんなに頑張っても、あと20年が限度なのだ。
そして、80すぎの20年など、あっという間に違いない。
しかも、その「あっという間」をフルに生きることすら、僥倖である。
100歳まで生きられる人は珍しい。
お年寄りの施設に勤め始めたばかりの人が、おっしゃっていた。
――かわいいもんですよ。
と――
お年寄りが、である。
その方も還暦を過ぎておられる。「お年寄り」というのは、70~90歳の人々を指しているようだった。
つまり、御自分より10~30歳ほど年上の人たちである。
同じ感慨を30年前に抱かれたことは、ありえまい。
30歳が、40~60歳の人たちをみて、
――かわいいもんですよ。
とは、いかぬ。
もしかしたら――
死への差し迫った恐怖が「かわいさ」を醸し出すのではないか――
そして、その「かわいさ」に通じる何かが、人を一気に老けさせるのかもしれぬ。
根拠はない。
ただ漠然と、そう感じるだけである。
が――
もし、そうだとしたら、人は実に切ない。