マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

女同士のバトルには

 お年寄りの女医さんが、やはりお年寄りの女性を診察したそうです。

 その女性は、みるからにヨボヨボで、髪は真っ白、身だしなみも乱れており――
 娘さんの手を借りて、どうにか診察室に入ってくるような状態でした。

 が、その女性――
 女医さんよりも歳若かったのです。

 女性は、女医さんの前に腰掛けても、無言でした。

 娘さんが先に切り出します。
「ちょっと遠出をする予定なのですが、出かけられる状態かどうか、診察していただけませんか?」

 一通りの診察を済ませましたが、とくに異常はみつかりません。
 が、あまりにもヨボヨボなので、ちょっと遠出は無理だと判断しました。

「そうやって娘さんの手を借りなければ歩けないような状態では、ちょっと遠出はムリでしょう」

 女性の不甲斐ない様子に腹が立ったのか、少し余計なこともいいました。

「あなたは私よりも若いのですよ。私は、こうして毎日、患者さんを診察しています。なのに、どこも悪くないあなたが、娘さんの手を借りなければ歩けないような状態では、遠出がムリなのは当たり前でしょう」

 結局、2、3日後に再受診するように伝え、その日は帰しました。

 そして、再受診の日――
 ヨボヨボだった女性は、その日は見違えるように若返っていました。

 髪は染め上げられ、身だしなみは整っており――
 娘さんの手を借りなくても、一人でシャンと歩いてきます。

 これなら大丈夫と思って、遠出の許可を出しました。

 遠出から帰って来たときにはお土産まで手にし、旅先のことを色々と報告したそうです。

 ――この豹変ぶりには驚かされた。理解に苦しむ。

 と、女医さんはコボしています。

 たしかに、理解に苦しみますね。

 女医さんは、あきらかに嫌味をいったのです。
 しかも、意図が透けてみえるような嫌みでした。

 ――この嫌味で発奮し、シッカリとしてくれればいい。

 という魂胆が見え見えです。

 それにもかかわらず――
 敢えて女医さんの意図通りに振る舞ってみせるのは、いかに人生経験の豊富なご老人といえども、至難の技であったでしょう。

 それをサラリとやってのけたのですから、「理解に苦しむ」のは当然です。

 もしかしたら――
 その「ヨボヨボ」だった女性は、単に悔しかっただけなのかもしれませんね。

 それで、女医さんを何とか見返そうと思って、見違えるほどに若返ってみせた――

 女同士のバトルには、老いも若きも無関係かもしれません。

 結構なことではないですか(笑