よく、
――素人
という言葉が使われますね。
たいていは侮蔑や自戒の意味を込めて使われます。
否定的な意味合いで使われることがほとんどです。
が、素人であることが、必ずしも否定されるべきではありません。
素人だからこそ、見抜ける本質というものもあります。
素人の反対は、玄人ですが――
玄人は、その物事に精通するあまり、その物事に固有の事情について、その固有性をうっかり失念することがあります。
例えば、医者は医療の玄人ですが――
医者は、毎日、患者ばかりを診ているために、世の中の人々は患者ばかりと錯覚してしまうことがあります。
バスに乗っていて、ちょっと具合が悪そうにしている人をみかけると、つい、重大な病気が隠れているのではないか、と考えてしまわないとも限らないのです。
――そんなわけないでしょ! ただの車酔いだよ。
という素人の言葉に、ハッと我に返ることだって、あるかもしれません。
素人であることを誰よりも求められるのは政治家でしょう。
政治は万事に及びます。
その全てに精通することなどは、ありえません。
にもかかわらず――
政治家は、しばしば重大な決断を迫られます。
素人として、決断を迫られるのです。
優れた政治家は、素人であることに徹することによって――
物事の本質を見抜き、より間違いの少ない決断を下すのです。