――今さら冥王星を降格させるなんて納得できん! 子供の頃から慣れ親しんできたロマンを返してくれ!
という意見があるらしい。
もし、これが、この国の多数意見ならば――
実に困ったことである。
明治以来――
自然科学の精神は、未だ、この国に根付いていないことになる。
*
今週、チェコで開かれた国際天文学連合の総会で、
――以後、冥王星を惑星の列から外す。
との決議が採択された。
各種報道機関が伝えるところである。
天文学者たちの多数意見だ。
彼らの説明に耳を傾ければ、これが最も自然科学的な結論であることがわかる。
にもかかわらず、
――ロマンを返してくれ。
などという人がいる。
宇宙活劇のロマンのことらしい。
――冥王星といえば、太陽系の最果てだ。最果てには最果てのロマンがある。そのロマンと冥王星とは容易に分かちがたい。
ということのようである。
が、できぬ相談だ。
そうやって宇宙活劇のロマンを取り戻したら――
今度は自然科学のロマンが失われる。
先人たちの偉業を書き換えていくのが、自然科学の醍醐味である。
宇宙活劇のロマンなら、作り直せばよい。
自然科学のロマンは、簡単には作り直せぬ。
あまりにも多くの人々に、あまりにも長い間、共有されてきたからだ。
自然科学の精神とは――
かかるロマンに最大限の敬意を払う意思でもある。