あらかじめ頭の中で考えていたことを文字に表すと、急につまらなくなることがある。
文字に表した内容がつまらなくなるということではなく――いや、そういうことも、決して少なくはないのだが――
文字に表すという行為自体がつまらなくなるということだ。
とはいえ――
物書きが文字に表さなかったら仕事にならぬので――
毎日、それなりに一生懸命に文字に表している。
文字に表すことで、頭の中の何かが、どこか別世界に固定されてしまう感覚である。
中学や高校の頃は、その「固定されてしまう感覚」を味わいたくて、夢中で文字に表していた。
固定されたものは美しいかもしれぬ。
が、面白くはない。
よほどの好奇心を動員せぬ限り、固定されたものには注意が向かぬ。
もちろん、その美が段違いの場合は、自然と注意が向くものだが――そういう事例は希である。
面白くなければ、注意は向かぬ。
では、
――面白さ
とは何か。
あるいは、
――面白さと美しさとの違い
とは何か。
結局、
――動いているか否かの違い
に尽きる。
つまり――
頭で考えていることを文字に表すということは――
面白いことを、美しくすることである。美しくないことを、面白くなくすることである。