数式表現について考えた。
命題を数式で表すことの意味である。
例えば、
――変数 xi と yi との組み合せについて、xi が大きければ yi も大きいし、xi が小さければ yi も小さい。
という命題を、数式で表すならば、
Σ(xi-E(x))(yi-E(y)) > 0
となる。
数式表現に慣れている者ならば、これだけで意味は通じる。
が――
慣れていない者ならば、そうはいくまい。
何のことやら、さっぱりわからぬに違いない。
そもそも、xi の「 i 」が何か、数式の左端の「Σ」が何か――それが、わからぬ。
僕も昔は、そうだった。
「 i 」は添字といい、色々な数値を一度に表記する際に用いる合図である。
例えば、
x1, x2, x3, …
と書くのが面倒なので、代わりに、
xi
と書く。
「Σ」はシグマ記号といい、この記号の右に書かれた数式で表されるうる全ての数値を足していくという意味で用いる。
例えば、
x1+x2+x3+ …
と書くのが面倒なので、代わりに、
Σxi
と書く。
また、「 E(x) 」は x の期待値だ。
ここでは平均値のことだと思ってよい。
以上を了解した上であっても、
――変数 xi と yi との組み合せについて、xi が大きければ yi も大きいし、xi が小さければ yi も小さい。
という命題が、
Σ(xi-E(x))(yi-E(y)) > 0
という数式で表されることを納得するのは、さほど易しいことではない。
少なくとも、ここで手軽に説明できるほどに易しくはない。
にもかかわらず――
命題を数式で表す者が後を絶たぬのは、なぜなのか。
*
結局、
――美しい
と感じるからにすぎぬ。それ以外に理由が見当たらぬ。
例えば、
Σ(xi-E(x))(yi-E(y)) > 0
に、美を見出すから、数式で表す。
このことは――
例えば、
――静心なく花の散るらむ
に美を見出すから、花見に耽るのと同じである。
ここで要請されるのは、理性と感性との融合である。