マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

看板に偽りあり

 タイでクーデターが起こった。
 19日の夜に、国軍の一部が首都を制圧したらしい。

 タクシン首相(暫定首相)は国連総会に出席するために国外にあった。
 ただちに非情事態宣言を発したが、効き目はなかったという。

 民心の離反が示唆される。

     *

 僕は、タイの昨今の政情はもちろん、歴史や風土や社会や文化の詳細を知らぬ。

 立憲君主制を採りながらも、議会制民主主義にたち、国王は国民に深く敬愛され、その影響力は誰も無視できぬ――
 その程度の知識しかない――それも、付け焼き刃の知識だ。

 また、僕はタイ国民ではない。
 タイの政治に口を挟む権利はない。

 それを承知で、敢えて印象論的に語るとするならば――
 今回の政変は、実に後味が悪かった。

 タクシン首相らが、たとえ、いかに腐敗し、いかに憎まれていようと、武力で政権を奪うことは、民主政治の否定でしかない。
 いやしくも立憲君主制および議会制民主主義を標榜する国で、このような政権交代が罷り通ってしまうことは、本来、絶対にあってはならぬことである。

 ――看板に偽りあり。

 という他はない。

 が――
 ここで頭をもたげてくるのは、民主政治への懐疑である。
 民主政治が完全無欠な政治形態でないことは、火をみるよりも明らかだ。

 だから、ためらう。

 ――今回のクーデターは実にけしからん!

 と糾弾する気にもならぬ。

 結局、何が最良かは、タイの人々によってしか判断できぬ、ということだ。

 僕にとっての悪が、タイの人々にとっての悪であるとは限らぬ。