僕は大学時代に医学を学んだ。
医学を学んで損はなかったなと思うのは、自分の体に不具合が起こったときである。
(調子わりーな)
と感じたら、まず本棚の医学書を引く。
もちろん、その段階で、だいたいの見当はついている。
どの分野の医学書かで迷うことはない。
最新の情報が必要なときは、インターネットを利用する。
それで、だいたいカタはつく。
医学書を引き、インターネットを利用して――
自分で自分の状態を診断する。
「診断」といっても、ごく基本的な臨床診断だ。
診断を最終的に確定させるためには、様々な検査を受けねばならぬ。
それは、自分一人では無理である。
とにかく――
そうやって、自分の状態を診断する。
自分の不具合の実態、あるいは、そうなった原因などが、だいたいは、わかる。
だからといって――
少しも気分は晴れぬ。
不具合の実態や、そうなった原因がわかったからといって、安心できるわけではない。
仕方がないので――
近所の開業医を訪ねたりする。
そして、自分の診断が確かであることを確認する。
不思議なもので――
訪ねた開業医に自分の診断が同意されるだけで、いくらか気分が晴れたりするのだ。
その開業医が、何か新奇の対処法を教えてくれるわけではないのだが――
つまり――
人は、自分の体の不具合を他人に話すだけでも、少しは楽になれる、ということである。
医の原点も、おそらく、ここらにある。