夜道を歩いていたら――
目の前を歩く御婦人が駆け出した。
小走りで逃げ出すようにして、僕の方を2度、3度と振り返る。
(昔、こんなCMがあったな)
と思った。
目の前を歩く女性が駆け出した。
それを呆然と見送る男――変質者と間違われた、という設定だ。
(オレの人相も、そこまで悪くなってたか)
と思う。
無理もない。
しょっちゅう、よからぬことを書いているしな――『道草日記』とかで――
――男は四十を過ぎたら自分の顔に責任を持たねばならぬ。
などという。
(責任もちたくねーな)
と思う。
逃げ出した女性は、50m ほど先で、ようやく歩き出した。
まだ2度、3度と、こちらを振り返っている。
夜目にも明らかな「オバさん」であった。
(若くて美しい人に逃げられるのなら納得もできるが――)
と思う。
が――
事態は思わぬ方向へ――
オバさんはバス停で立ち止まった。
その直後――
バスが僕を追い越していった。
それで、わかった。
オバさんは僕を変質者とみて逃げ出したのではない。
バスに乗り遅れまいと、駆け出したにすぎぬ。
2度、3度と振り返っていたのは、僕の追跡を警戒してのことではない。
単にバスの位置を確認していただけである。
ゴメンよ、オバさん――