二十歳の頃に――
自分の顔が丸いことを酷く気にしている女性がいた。
当時の僕には、なぜ、そんなことが気になるのかが、全くわからなかった。
その女性は、たしかに顔は丸かったが――
別に太っているわけではなく、むしろスタイルは良く――
その丸い顔は、当時ブレイクしたばかりの女優さんに、似てすらいた。
もっとも――
その女優さんの顔は丸くはなかった。
女優さんの顔を少し丸くすれば、その女性の顔になる――
そういった塩梅であった。
僕には、大した違いには思えなかった。
――女優さんに似ていることは間違いないのだから、それでいいじゃないか。
と思った。
ところが――
いくら、そういっても、納得した様子はみせない。
――丸顔はイヤだ。
の一点張りだ。
(女心は、よくわからん)
と思った。
今なら、わかる。
丸顔だと、色気が薄まるのだ。
わけても――
色気が含む知的な要素が、薄まる。
少なくとも――
今の僕の視点では、そうである。
そして――
かなり具合が悪いことに――
その女性は、若干、知性に難点があった。
会話を交わしていても、あまり楽しくない。
その女性になくて、あの女優さんにはあったもの――
それは、知的な色気であった。
当時の僕も、無意識のうちに、そう認識していたのかもしれぬ。
それが自然と伝わっていたのかもしれぬ。
だとしたら――
ずいぶん残酷なことをした。