二、三日前から風邪が抜けぬ。
今冬、二度目の風邪である。
風邪は大病ではないが、ひいているときは、実に厄介だ。
喉は痛く、頭は重く、鼻はつまり、クシャミは止まらぬ。
いつもなら楽にできることが、ひと苦労である。集中力は落ち、些細な過ちが増える。
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風邪をひく度に思いだすのが、坂本竜馬のことである。
幕末の志士として知られ、薩長同盟を斡旋した人物として名高い。
その薩長同盟が成立した約2年後に――
坂本は京都の旅館・寺田屋で暗殺される。
冬の夜だったという。
坂本は風邪をひいており、体調は万全ではなかった。
そこを何者かに教われ、殺された。
本来ならば、簡単に殺されるような男ではなかった。
坂本は、薩長同盟成立の翌月にも襲われているが、そのときは事無きを得ている。
風邪の罹患が生死を分けたのであろう。
享年は30余り――
その後の日本をリードした伊藤博文や大隈重信などと比べても、さほどの年長ではない。
生きていれば、もう少し違った形で歴史に名を残したかもしれぬ。
風邪をひき、喉は痛く、頭は重く、鼻はつまり、クシャミは止まらぬ――
そんな状態で斬り死にした坂本の無念は、いかばかりであったか。
人の世は残酷だ。