ときどき――
昔の創作ノートを読み返すことがある。
「創作ノート」というのは、小説のメモ書きのことだ。
ファイルのルーズリーフに、物語の舞台設定や、導入部分のエピソードや、各キャラクターの概略などが、鉛筆で書き込んである。
こうした創作ノートを、大学1年頃までは、せっせと書きためていた。
大学の勉強が忙しくなって、留年への危機意識が強くなって(本気でヤバいと感じ始めて)そのまま放ってある。
今は、創作ノートは書かぬ。
何度も頭の中に書く。
そうやっているうちに忘れるものは採用せぬ。
何度、考えても必要な舞台設定、エピソード、キャラクターというのがある。
それだけに絞る。
実際――
昔の創作ノートを読み返してみると――
余計なことばかりが書いてある。
あの頃は、感覚で小説を書いていた。
物語と小説との区別がついていなかった。
小説とは、物語を伝える媒介の一つである。
そのことが、まだ、みえていなかった。
*
僕が本気で文筆を志し始めたのは――
三十を過ぎてからだった。
二十歳前後でデビューを果たし、その後も文壇を賑わせておられる作家さんたちの御様子をみていると、
――オレも、ああなるべく努力すべきではなかったか。
と思うときがある。
もちろん、そうしていたら、大学を出ることはできなかったかもしれぬ。
それを承知で、
――オレも、ああなるべく――
と思うときが、たまにあるのだ。
が、創作ノートを読み返して苦笑する。
(二十歳前後のデビューにこだわらなくて正解だった)
と、今は思う。