何とも痛ましい事件だ。
21歳の兄が20歳の妹を殺害した。
兄は予備校生で、いわゆる3浪生――今年、4回目の歯学部受験に挑戦する予定だった。
妹は短大生で、芸能事務所に所属――女優になる夢を追いかけていた。
妹は、兄をさし、
――夢がない。
と詰ったらしい。
それに腹を立て、殺害に及んだという。
兄妹は、ここ3年間は、ろくに口をきいていなかったそうだ。
3年とは、兄の浪人生活の期間に一致する。
もし、3年ぶりの言葉が、
――夢がない。
だったとしたら――
兄の激昂は想像できぬこともない。
が、20歳の女性が、いくら自分の兄とはいえ、3年も口をきいておらぬ相手に、いきなり、
――夢がない。
などと、いうものだろうか。
もしかしたら――
妹のほうでは、
――ここ3年間、ろくに口をきいていなかった。
との認識すら、なかったのかもしれぬ。
だとしたら――
凄まじいレベルのスレ違い――ということになる。
もちろん――
兄妹の間に何があったかは、わからぬ。
妹が亡くなった今、真実は藪の中だ。
たまらぬのは両親だろう。
息子が娘を殺す――想像の域を越えている。
――こうなる運命だった。
と思い、黙って受け入れるしかないのではあるまいか。
理屈の域も越えている。