人間の直感力というのは――
実にスゴいものだと思う。
先日、税務署にいって確定申告に必要な書類を作成し、窓口に提出しようとしたときに――
なぜか、妙にイヤな予感がした。
その予感が、落ち着きのなさにつながり――
僕は意味もなく書類を作成した机の周囲を丹念に調べた。
とくに何かを探すために調べたのではなく――
落ち着きがなくなったから、何となく調べてみたにすぎない。
――調べるポーズをとった。
といっても、いいすぎではなかった。
それなのに――
家に帰って、納税関係の資料を整理していたら――
あるはずの資料が消えていた。
資料は貴重なものであった。
このままでは、来年の確定申告のときに困るのは明白だった。
そのとき、
(あ……)
と思った。
(税務署の机の上に忘れてきたのではないか)
と――
僕は直ちに家を飛び出し――
税務署に急いだ。
係の女性に、事の次第を話すと、
「ちょっと、お待ち下さい」
といわれ――
その後、すぐに別の男性が現れ――
僕の名字を口にした。まだ名乗ってもいないのにである。
やはり、資料を置き忘れていた。
その男姓は、置き忘れた資料をあらため、そこに書かれてあった僕の名字を確認したのである。
書類を窓口に提出するときに――
妙にイヤな予感がしたのは、ダテではなかった。
落ち着きがなくなって、苦し紛れにポーズをとっただけだったのに――
僕は忘れ物を、無意識のうちに、探し出そうとしていたわけである。
もっとも、結局は探し出せなかったのだけれど――
*
ちなみに――
忘れ物に気付いて、すぐに家を飛び出す気になったのは――
自宅から税務署まで、歩いて2、3分の距離だからだ。
電車で2、30分の距離だったら――
こうはいかなかった。