人は、自分の残り時間が少なくなってくると――
自然と忙(せわ)しく立ち働くようになってくる。
働き方だけではない。
感じ方も、考え方も――
遊び方も、休み方さえも――
徐々に忙しくなっていく。
心に余裕がなくなって――
ついには、異人たちとの摩擦を激化させてしまう。
「異人たち」とは――
自分とは異なった価値観で動く人たちのことである。
時々――
齢90に近いような人で――
いつも笑みを絶やさずに、ニコニコとされている方がある。
そういう人に接し、いつも不思議に思うのは――
意外に、自分の要求をストレートにいってくる、ということだ。
とりわけ、こちらから水を向けようものなら――
本来なら、相当にいいにくいようなことでも――
平気で要求したりしてくる。
が――
にこにこニコニコしながら要求するものだから――
要求されても、そんなに腹が立ったりはしない。
(ま、そりゃそうだよな)
などと、かえって納得してしまう。
どうやら――
人は、自分の残り時間が気になりだしたら――
器用に我がままになる術が必要のようだ。
――器用に――
とは、
――愛嬌たっぷりに――
と言い換えてもよい。
誰だって、残された時間を節約したい。
ムダなことには使いたくない。
そのためには――
第一に、愛嬌が要るようなのである。
幾つになっても、にこにこニコニコしているご老人たちは――
皆さん、愛嬌の達人である。
つい、我がままを許したくなる笑みをこぼされる。
そういうのを、
――人徳
といっても、よいのかもしれない。
人徳は、清廉潔白な人格とは、必ずしも関連していない。