――母親を殺しました。
といって――
警察に出頭した少年がいたらしい。
今日は、このニュースで朝から持ち切りだ。
(そんなことが起こるのか?)
と思った。
マンガや小説のネタとしてなら、ともかく――
実際に、そうした事件が起こるのか――
あるいは、起こしうる者がいるものなのか――
ちょっと、すぐには信じられなかった。
(ウソだろ?)
と――
一般に――
少年にとって、母親とは他者である。
少なくとも、少年が少年であるうちは、他者である。
が、母親にとって、おそらく違う。
少年は他者ではない。自己の一部といってよい。
自分の体から生まれ出たものであり、かつ自分にはない性質――雄性――を帯びている。
だから、自然、そういう感覚が付いてまわるらしい。
もちろん――
以上は、話を過剰に整理した。
実際の親子関係は、もっと複雑かつ多様で、様々な個別的事情に彩られている。
とはいえ――
大まかな構図は、これでよい。
少年は、他者を殺した。
少なくとも当人は、そのつもりであろう。
が、母親は自己の一部に殺された。
自分の腕が自分の首を絞める絶望感を、母親は味わったはずである。
本当は――
少年が母親を一人の人間として見始めたとき――
母親は、他者ではなくなっていく。
かけがえのない自己の一部であることを悟り、受け入れていく。
少年に、その日が来るであろうか。
たぶん、永遠に来ないのであろう――
事実関係をみない限り、うかつなことはいえないが――