父は6年前に亡くなっている。
だから――
今となっては、もはや確かめようもないのだが――
僕は、女性の好みが、父に似ていると思う。
好意を抱く女性の類型が、ほぼ同じだろう、ということだ。
大急ぎで断っておくと――
いわゆる女性観――世の女性は、かくあるべし、との信念――は、少し違っている。
父は昭和10年代の生まれだったので――
女性の見方は少し古い。
父の世代だったら笑って許されていたであろう偏見に、父は、ほぼ無自覚に固執していた。
*
一度だけ――
自分が付き合っている女性を、父に引き合わせたことがある。
父は、その女性を、いたく気にいって――
その後、母に向かって何度か、
――あの娘(こ)は、いい子だ。
と口にしたようだ。
結局、その女性とは、別れてしまったが――
もし、そのまま結婚していたら――
少なくとも、舅・嫁関係は、磐石になっていた。
もっとも、彼女と僕とが別れたのは、父の死後のことである。
だから――
たぶん、父は、自分の気に入った女性が息子の嫁になる未来を思い描きながら、あの世に旅立って逝った。
いや――
あるいは、すべてを見越した上で、
――バカな息子だ。慌てやがって――
などと達観しながらの旅立ちであったかもしれない。
彼女を父に引き合わせたのは――
父の病気がわかり、もう永くはないということが、医学的にハッキリしてからであった。
息子が突然、自分のところに女性を連れてきた不自然さや強引さを、まったく感じとれないような父ではなかった。
息子の焦りは、明瞭に意識したと思う。
もちろん、その焦りは、そのまま父自身の焦りでもあったろうが――
それは、ともかく――
*
一度でよいから――
自分の妻と父とが仲良く談笑するところを、この視野に収めたかった。
僕が妻にしたがる女性は、ほぼ間違いなく、父が嫁にしたがる女性であったと思う。
さぞかし和やかな団欒になっていた。
父の日に寄せる――
息子の確信である。