ときどき――
人と人とが、わかりあうのは、実は、そんなに難しいことではない、と思うことがある。
双方に、わかりあおうとする意志がありさえすれば――
意外に容易に、わかりあえてしまうのではないか、と――
幻想かもしれない。
いや――
幻想であろう。
一般には――
人と人とが、わかりあうのは至難のわざである。
双方に、わかりあおうとする意志が生じること自体――
かなり珍しいことといわねばならない。
たいていの場合は――
どちらかが一生懸命にわかろうとし、どちらかが殆(ほとんど)どわかろうとしない――
そういうものである。
人と人とは、容易には、わかりあえない。
わかりあえると誤解した瞬間から――
悲劇は始まる。
よく考えれば――
喜劇である。
わかりあえるはずがないのに、わかりあえるつもりでいる。
恋した少女に送った手紙が、何かの事情で、少女に届いていないのに――
返事が来ないのを、あれこれと思い悩んでいる――
そんな少年の喜劇に似ている。