副業先の計らいでタクシーを利用することが多いのだが――
タクシーの運転手さんには、色々な人がいる。
今日は、よくお喋(しゃべ)りをする人だった。
50代ないし60代の男性で、地元の訛(なまり)の強い人であった。
とにかく、よく喋る。
――今朝は4時に起きて梅をとりに行ってきた。
に始まり、
――今の季節はタケノコだね。
と――
その後、延々、タケノコの話である。
ハンドルを握りながら、時折、後部座席の僕の方をチラリとみながら、喋る。
時には、
――これくらいの大きさの……。
と身振りで示し、ハンドルを手放すこともある。
一見して、危険運転なわけだが――
よくみると、そうではない。
さかんにお喋りをしながらに、それでも――
例えば、対向車線の車をよくみて止まったり、その陰に隠れている自転車や歩行者に先を譲ったりしている。
法定速度を、かたくなに遵守している。
それでいて無用な信号には引っかからない。
だから、そんなに遅れたりはしない。
道順や道路の込み具合、信号のタイミングなどが、すべて頭に入っているかのようである。
これで、お喋りの内容が面白ければ、いうことなしなのだが――
つまらない。
どうでもいいことを、飽きることなく喋っている。
が、今日は――
面白い話もした。
――私は高校時代が一番楽しかったんだよね。
という。
――理科は生物を選択し、授業はロクにきかないで、よくサボって山に分け入って、教科書を手に、あちこち見てまわった――
のだそうだ。
学ぶことの醍醐味が、よくわかっている人のようである。