秋になった。
毎年、この季節になると、自分の来し方を振り返る。
たぶん、誕生日を9月に迎えるからである。
三十路に入ってからの習慣となった。
*
十代の頃の僕は、作家になりたいと思いつつ、
――まあ、ムリだろうから――
ということで――
科学者になろうと決意していた。
自分の父親が科学者だったので、科学者という職業は、自分が望みさえすれば、なれるものだと思っていた。
実際には、なれなかった。
科学者になるために、他の全てを犠牲にするということが、僕にはできなかった。
父にはできたことであったらしいが――
科学者になろうという決意が揺らいだのは――
作家になりたいという思いが断ち切れなかったからである。
科学者になろうと決意する前に、作家になりたいと思っていたのだから――
それは、ある意味で、当然のことであった。
自分の本当の気持ちというものは、そう簡単には誤摩化せぬものである。
ただ――
僕は、今、医師として働いている。
生計のほとんどは、医師としての収入で埋めているのが現状である。
この事実が、事態をややこしくする。
――オレは今、何をしたいのだ?
と自問する契機になっている。
そもそもは――
科学者を志しながらに医師の免許を取得したことが、間違いであった。
科学者になろうと思うなら、医師の免許は不要である。
まあ、いい。
先人たちも、いっているらしいではないか。
――人生は過ちの連続だ。
と――
過ちは過ちとして、謙虚に受け止め――
次に備えればよいのである。