――物いえば唇寒し。
などという。
もとは松尾芭蕉の句「物いえば唇寒し秋の風」であるらしい。
僕は、この言葉が、どうにも好きになれずに、
(そんなこといって黙ってたりすると、かえって大変なことになるんだよ!)
などと考えたりする。
が――
口は災いのもと、である。
悪意のこもった非難中傷の類いは、いうに及ばず――
良かれと思ってした発言でも、良くないほうに解釈され、一気に問題化することが、少なからず、ある。
――物言えば唇寒し
といって、常に黙っている人を、
――無責任だ!
と断じることは難しい。
たしかに、人生を楽に過ごそうと思ったら――
余計なことはもちろんのこと、時には必要なことであっても、黙っているほうが効果的であったりするのだ。
けだし、人の世は魑魅魍魎が支配する。
論理や理性の通じぬ世界である。
かかる世界で、物をいうのは――
博打がごときである。
勝負に敗れて恨みっこなし――
そういう心境にでもなれない限り、物をいうのは、控えるべきかもしれない。
だから――
人に物をいうのを、強いるのはよくない。
さながら、人に博打を勧めるがごときである。