『覆面作家企画3“冬”』Bブロック(前半)の感想です。
覆面作家企画3“冬”
http://fukumennkikaku.web.fc2.com/3/index2.htm
覆面作家企画については、2008年2月1日の『道草日記』を御覧下さい。
*
B1 奪われた空
導入部分が素晴らしいですね。
ぐいぐいと引き込まれます。
僕は物語を3つの要素に分解しています。世界、人物、事象の3つです。このうち、世界の描写に重きをおく物語はファンタシーの正道だと考えています。
この作品は、ファンタシーの正道ですね。冒頭の、
――人は空を飛べた。
は、ファンタシーの開幕を告げるファンファーレです。「これは、人が空を飛べる世界についての物語である」というメッセージですね。
鮮やかな宣言ですが、文言にはムダがない。
見事な書き出しだと感じます。
B2 虹のリドル
主人公の女の子が手で湖水をすくってペガサスにみせる場面は、美しいですね。情景が挿絵となって脳裏に浮かびました。
と同時に、一瞬だけ、
(そこに、ちゃんと虹がうつってるのかな?)
などと訝りましたが(笑)――現象が物理的に可能かどうかは、この際、問題ではないですよね。文芸は科学ではありませんから――
B3 例え夢を諦めても(beyond the empyrean)
冒頭の入学式の描写で、女子生徒(さとる)が挨拶文を「――だ、――である」調で読んでいる場面に強烈な印象を受けました。
(なんだ、この娘(こ)は?)
と――(笑
このシーンで十分に面食らっていたので、以後、さとるのエキセントリックな言動にも違和感はありませんでした。
(あ、そういう娘なのね)
と――(笑
――夢を諦めざるをえなかった自分の代わりに宇宙飛行士になれ。
なんて、この娘にしかいえないと思うのです。
B4 冷たい頬
僕はバッド・エンドの物語が好きなのですね。
とくに、物語の重要人物が酷い目にあうという展開が、好きなのです(笑
そのような意味で――
視点の人物であったコウヤが殺されるラスト・シーンに、強く惹かれました。
B5 かくして王は
気品のある語り口が、正道ファンタシーの雰囲気を盛り上げています。
(やはり、ファンタシーはこうでなくちゃ)
と思いました。
それにしても――
この若き王は、実に強(したた)かな政略家ですね。
自分の出自の弱みを、これ以上にないくらい上手に消してしまった――
むしろ、弱みを強みに変えている――
こんな王の物語なら、ぜひ長編で読んでみたいと感じました。
B6 未だ凍てつく春の中
正直に申し上げて、一度よんだだけでは趣旨がわかりませんでした。物語の面白みが皆目わからない(笑
でも、文体が高尚であり、語彙も豊潤なので、もう一度よみかえしてみたくなったのですよ。そうして、
(あ!)
と気づきました。
(不思議な病気の話なのね)
と――
患者の体の周辺だけ、季節が足早に巡っていくという病気です。
その病気に罹っているのが十四歳の娘なのですから、夢のような情景ですよ、少なくともオジさんの観点からは――(笑
が、それが死を匂わす奇病の症候とあっては、実に残酷な情景でもあるのですよね。
そのギャップが深みを醸し出しているように思います。
行路と巴とが肌を合わせる場面は、圧巻です。
例えば、以下のような言葉遣い――
――抱き留められた未だ堅い胸に、行路は溺れた。温かい。あたたかい――
官能的に高ぶる内面が見事に描かれています。
こうした心情描写は文芸の利点ですね。映像化は困難でしょう。