マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

男の業

 美人に向かって、

 ――お美しい。

 などと話しかけるのは――
 礼儀正しい態度とはいえません。

 女性がいうぶんには OK かもしれませんが――
 男がいうのは、明らかに NG でしょう。

 なぜならば――
 男が、女性を、

 ――美しいか、美しくないか

 の視点でみているときに――
 男は、その女性のことを、多少なりとも非人格的な存在とみなしているからです。

「非人格的な存在」というのは、「人形」とか「物体」とかいった言葉で言い表せそうな概念のことです。

 つまり――
「お美しい」と口走った瞬間に――
 男は、女性の人格を、多少なりとも否定してしまっている、と考えられます。

 だからでしょう。
 男から面と向かって「お美しい」といわれて嬉しそうにしている女性というのを、僕はみたことがありません。
 嬉しさを噛み殺し、ひたすら謙遜に徹している、というのでもない――むしろ、噛み殺しているのは不快感のようですらあります。

 10年ほど前のこと――
 当時17歳だった美人の娘さんが、50代の男性によって、容姿をベタ褒めされているところに遭遇しました。

 面と向かってのことです。

 その娘さんの顔は、心なしか青ざめていきました。

(あ、怒ってる)
 と直観したものです。
 その直観が当たっていたかどうかは別にして――

 とはいえ――
 その青ざめた顔が、いっそう可憐に美しくみえたのも事実なのですよね(笑

 男の業です。

 自分が男であることを、あれほど重く実感したことはありません。