ヒトの脳とコンピュータとが違うところは、
――忘れるかどうか。
です。
ヒトの脳は忘れますよね。
よく忘れます(笑
(去年、あそこで会ったあの人、名前なんだっけ?)
とか、
(思いだせない! 昨日、勉強したことなのに!)
とか――
ところが――
コンピュータは忘れない――
去年、打ち込んだデータは、そのままで――
昨日、作った文書は、一字一句、違わない――
この「忘れるかどうか」ということ、ヒトの脳に固有な性質――例えば創造性――とが密接に関連すると予想することは、自然なことです。
コンピュータには創造性が認められないからです。
忘れるということは、重大な働きである可能性が高いのですね。
もしかしたら、人の創造性の源かもしれません。
創造性だけではないでしょう。
*
僕は、
――人の心は流転する。
と思っています。
先月の自分と今月の自分とは全く違う――
今年のあの人と去年のあの人とは別人格――
そういう印象をもつことが、人の世では、よくあります。
このような性質も「忘れること」に端を発しているに違いありません。
忘れるからこその人なのです。
もし、人がコンピュータのように物を忘れないのであれば――
人の心は「流転」しないでしょう。
コンピュータのソフトが「流転」しないように、「流転」しない――
そのときは、人は、すでに人ではなく――
人の心は、どこかの虚空に消えていることでしょう。