何かに夢中になっていて、つい時が経つのも忘れるという体験を――
最近は、めっきりしなくなりました。
(ああ、まだ、こんなに時間が残っているよ)
という感覚のほうが、ずっと、なじみ深いのですよね。
時間というのは――
世界が生命体に刻み込む目盛だと思っております。
時間という物理的性質をどのように解釈するかは、古来より、哲学者や科学者たちの悩みの種でしたが――
現代物理学によれば、世界は、少なくとも全体としては、秩序の整った状態から無秩序な状態へと、少しずつ変化していっています。
意識ある生命体である我々ヒトは、その変化を、
――時間
として認識しているのでしょう。
生命体も、世界の一部を構成する以上、世界のルールに従わねばなりません。
「秩序から無秩序へ」という世界の絶対的なルールが、「時間」という名の目盛を、生命体に刻み込んでいると考えられます。
その永続的な刻印を忘れるということが、時の経つのを忘れるということに他なりません。
そのとき、ヒトは、自分が世界の構成物の一員であるということを、きれいサッパリ忘れているのです。
文字通り、自分だけの世界に浸っているということですね。
こうした感覚ないし解釈は、僕らの日常の経験に、よく合致します。