虚構の弱さというのは、たぶん、
――逃げ
に由来しているのだと思います。
例えば――
自分の幼少期の体験を、小説に書くのとルポに書くのとでは、読み手に与える説得力が違ってきます。
小説に書くのなら、所詮はウソですから、適当に気が向くままに書いても許されますが――
ルポに書くのなら、一応はウソはダメですから、しっかりと裏づけをとって書かなくてはいけません。
小説なら自分の記憶を頼りに書きなぐれますが――
ルポなら当時を知る人たちへの聞き取りが必要です。
当然、小説よりルポのほうが何倍も手間がかかる――
書くときの緊張感も違うでしょう。
こうした手間や緊張感から逃げることで、小説に弱さが生まれます。
それが、
――虚構の弱さ
です。
小説の虚構は弱く、ルポの現実は強いのですね。
つまり、何かを世に訴えようと思っても――
小説では説得力が出ないということです。
逆にいえば――
小説では説得力は必ずしも必要がない――
あるいは――
小説では世に訴えるメッセージは必要がない――
ということです。
何かを説得力で包んで訴えるときには、小説の体裁は採らないほうがいい、ということでしょうね。