僕はビールが好きでしてね。
放っておけば、いつまでも飲んでいるでしょうね。
放っておかれたことがないので、よくわかりませんが――(笑
ただし、自宅でビールを飲むことはありません。
僕は、いわゆる晩酌には興味がありません。
ビールを飲むのは外での酒席のみと決めています。
気のおけない人たちと、時が経つのも忘れて、いつまでもビールを飲んでいるのが、幸せなのですね。
ビールの何が好きかといわれれば――
何といっても、あの苦味です。
(うわ、にが!)
と初めて知ったのは、僕が4歳の時ですが――(笑
誤って冷蔵庫の中のビール瓶を開けてしまった時です。
そのとき、父が傍にいたように記憶しております。
つまり、父は、4歳の息子がビールに手を出すのを、とめようと思えばとめられたはずなのに、敢えてとめなかったようなのです。
父は7年前に亡くなりましたから、事の真相を確かめる術はありませんが――
もしかしたら、4歳の息子にビールの味を覚えさせたかったのかもしれません。
父は、下戸ではなかったのですが、酒席を楽しめない人でした。
それで、社会人になって、ずいぶんと損をしたのだといいます。
二十歳前の僕に向かって、
――酒は楽しめたほうがいい。
と、何度か語っておりました。
おかげで――
ビールを飲むのが好きになりました。
二十歳になって、もう一度、ビールを口にしたときに、
(あ、これ、懐かしい)
と思ったのですね。
今でも、おいしいビールを味わうと――
4歳で覗き込んだ冷蔵庫の中を思い出します。
この世にビールがあるからこそ――
僕は酒席が楽しめるのです。
もし、日本酒や焼酎や葡萄酒しかなかったら――
僕も、父と同様、酒席が嫌いになっていたでしょう。