作家だろうが、詩人だろうが、俳優だろうが、画家だろうが――
優れた作品を残す芸術家は、自分の仕事に取りかかる前段階から優れているのだと感じます。
豊かな思慮や分別を備え、その資質を作品に反映させる術を心得ており、そのための下準備に十分な時間を割く――
そういう人が優れた作品を残す芸術家だろう、ということです。
僕は、文芸のことなら、ある程度はわかりますが――
絵画のことは、ほとんど何もわかりません。
ちゃんと絵を描いたこともなければ、画家の世界に精通しているわけでもなく――
が――
画家の優れた作品をみることは好きなのですね。
歴史上、有名な画家の展覧会には、ときに列車で遠出をしてまで、みにいくことがあります。
そういう画家たちの絵の技法に興味があるのではなく――
そういう画家たちの「前段階」に興味があるのです。
「前段階」においては、作家も詩人も俳優も画家も、問題意識は似ているからです。
絵画の優れた作品を通し、文芸の優れた作品に思いを馳せるということは――
決して、無意味なことでも不粋なことでもないだろうと、僕は考えています。