人間の体が持つ二面性については、時と場合とによって、どちらか一方の面のみが強調されやすい傾向にあります。
例えば、医療の現場では、体の精神性が強調されます。
その典型的な極論は、
――患者は人間だ。精神を持たぬ動物とは違う。
というものです。
他方、研究の現場では、体の物質性が強調されます。
――人間も機械仕掛けの物質の塊にすぎない。
というものです。
どちらも正しいのです。
どちらか一方だけの立場に依ることがまずいだけであって――
医療の現場で、人間の体の物質性を忘れることは、その精神性を忘れるのと同じくらいに許されないことですし――
研究の現場で、人間の体の精神性を忘れることは、その物質性を忘れるのと同じくらいに愚かしいことです。
これは、人間の体を考える上で、最も重要な注意点となりえます。