誰かに向かって怒ったりすると――
怒られたほうは、当然、不快なわけですが――
怒ったほうも、実は不快なのですよね。
だから――
誰かに向かって怒るというのは、本当に損な話なのです。
*
今日、喫茶店に入って、コーヒーやケーキを注文したら――
なかなか持って来てくれなかったのですよ。
だいたい20分くらいで外に出なければならなかったのですが――
あと5分くらいという段になって、ようやくコーヒーだけが運ばれて来ました。
――ケーキは、もう少しお待ち下さい。
と、店員さんはいうのです。
が――
あと5分で出なければならないわけですから、
(ちょっと、これ以上は待てないぞ)
と思い、キャンセルを申し出ました。
そのとき、僕の心に全く怒りがなかったといえばウソになるでしょう。
だって――
喫茶店でコーヒーやケーキを頼んで15分も待つというのは――
ちょっと尋常ではありませんよ、軽食の類いなら、わかりますが――
よって――
もし、僕のキャンセルの申し出に、その店員さんが少しでも怒りを露にしていたら――
僕も、間違いなく怒りを露にしていたと思うのですよ。
お互いに怒り合って、さぞかし不快な思いをし合ったことでしょう。
ところが――
その店員さん――ちょっと若めの男性でしたけれども――は、怒りなどは微塵もみせずに、実に丁重にお詫びになったのです。
そんなふうに対応されてしまったら――
こちらとしては、怒る理由がありません。
――いえいえ、どうかお気になさらずに――
とまで、口走ってしまいましたよ。
その僕の言葉に、さらに恭しく礼を返されて――
なんだかスゴく得をした気分になりました。
つくづく思いましたね――
怒るということは損であり、怒らないということが得である、と――
その「得」は、たぶん「徳」にも通じるでしょう。