ファンタシーの醍醐味は――
誰もが知らない世界にあります。
「誰もが知らない世界」というのは――
いいかえれば、
――にわかには理解されがたい世界
ということです。
理解されがたいことを他者に伝えるためには、確かな表現の力が求められます。
表現とは、表現の対象を理解されやすい素要素にまで分解し、それら諸要素を再統合することです。
ということは――
「表現の力」とは、分解する力と統合する力との相乗に他なりません。
つまり、ファンタシーの醍醐味とは――
理解されがたいことについて、分解する力と統合する力との相乗効果を存分に味わう、ということです。
ファンタシーの送り手にとっては、その相乗効果を自分の手で引き起こすことが――
ファンタシーの受け手にとっては、その相乗効果を身近に感じとることが――
ファンタシーの醍醐味です。
この醍醐味は――
実は学問の醍醐味に似ています。
学問の楽しみを理解するためには、ファンタシーを味わったり、あるいはファンタシーを紡ぎだしたりする体験が、意外な手がかりになるかもしれません。
例えば、学校の授業で、ファンタシー小説を読んでみたり、あるいはファンタシー小説を書いてみたり――
10代の頃、僕は科学者になりたいと思っていました。
と同時に――
ファンタシー小説をたくさん書いていました。
当時は、相反する二つのことを追い求めている気がしていましたが――
実際には違ったでしょう。
科学者になるためにファンタシー小説を書いていた、といってもよいくらいです。