マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

物語を管理する能力

 作家に求められる能力の中に、

 ――物語を管理する能力

 というのがあります。
「管理する」とは「破綻させない」あるいは「維持する」と言い換えてもよいでしょう。

 この能力が特に必要とされるのはシナリオ・ライターや脚本家だろうと思います。

 というのは――
 映画や演劇では、不測の事態から物語の途中変更を迫られることが少なくないからです。

 俳優さんが体調不良で降板してしまったとか、予定していた撮影現場が確保できなかったとか――

 そういった外部からの撹乱因子に晒されつつ、いかに物語を管理し続け、結末へと導くか――
 それが作家の力量を示す変数の一つといえましょう。

 管理するということは、外部からの撹乱因子を排除するということを意味しません。

 降板した俳優さんとソックリの人を求めたり、確保できなかった撮影現場と同じような場所を探したりすることではなく――
 新たに決まった俳優さんや撮影現場の良さを活かすべく、物語の流れを巧く変えることです。

 例えば――
 物語の結末にヒロインの濡れ場のシーンがあったとします。

 ところが、突然、主演女優の事務所が「そういうのは困る」と言い出したとします。
 物語は、結末に至るまで、そうした場面をあからさまに予期させる展開であったとします。

 さて――
 どうするか。

 物語を管理する能力というのは、こうした問題を解決する能力のことです。

 ちなみに、僕だったらどうするか。

 ……

 ……

 う~む。

 難しいですね。

 ……

 ……

 たぶん、ヒロインに死んでもらいますね(笑

 ただし――
 唐突に死ぬだけでは、物語が破綻してしまいます。

 死には相応の理由が必要です。

 どういう理由が適当か。

 ……

 ……

 う~む。

 もっと難しいですね(笑

 ……

 ……

 物語の展開がヒロインの濡れ場をあからさまに予期させる展開であったということは――
 物語の視点を担う登場人物――通常は主人公――が、それを強く願い続けていた、ということですよね。

 であれば、主人公の強すぎる願望がヒロインを死に至らしめるという筋書きしかないでしょう。

 当のヒロインが、その「強すぎる願望」を拒んで自死するというのが、妥当なところでしょうか。