しばしば、
――理系のセンスが大事だ。
などといわれます。
たしかに大事だと、僕も思うのですが――
ときどき――
この「理系のセンス」が、
――数値を巧く扱うセンス
と同義で用いられていて、ちょっと気になるのです。
理系 = 数学
という図式に引きずられているような気がしてなりません。
僕は「理系のセンス」と数学とは、基本的には無関係だと思っております。
「理系のセンス」と「数値を巧く扱うセンス」とは、全くの別物である、と――
「理系のセンス」というのは「自然現象と巧く付き合うセンス」のことだと、僕は思っております。
自然のことをよく知り、自然物への介入が適切で、自然現象と折り合いをつけていくセンスです。
したがって、例えば、三角関数や微分方程式がわからない人でも、悪天候の登山から生還できるような人は、「理系のセンス」に溢れています。
逆に、いくら高等数学の素養に優れていようと、自然公園のハイキング・コースで道に迷うような人は、「理系のセンス」に乏しいといわざるを得ません。
だから――
僕は「理系」という言葉がよくないと思うのです。
いわゆる理系・文系の区分は無意味です。
もし区分するなら、「自然系」「非自然系」がよいでしょう。
「非自然系」というのは、主に人文学系や社会学系を指しますが、必ずしもその通りではありません。
例えば――
心理学は人の心をヒトという種の主要な属性とみなすときに、自然系に分類されます。
そして、集団の心理学がマクロ経済の基盤を与えるとみなすならば、経済学も自然系に分類されうるかもしれません。
逆に――
理論物理学領域における超ひも理論の研究などは、実験による検証が、少なくとも現時点では困難であるという点において、非自然系に分類されるでしょう。