一般に、お役所言葉というのは――
無味乾燥で、人間味に欠け、冷酷な印象があるとされ、そっぽを向かれることが大半です。
直近では、「後期高齢者医療制度」が好例でしょう。
75歳以上のお年寄りを「後期高齢者」と一口に括った姿勢が反感を買いました。
高齢期を「前期」や「後期」という言葉で区分しようという発想にも反発は強かったようです。
よって、ときの福田総理は、これを「長寿医療制度」と呼ぶように指示されたそうですが――
依然として「後期高齢者医療制度」が多用されています。
「後期高齢者」のインパクトが行き渡ってしまったあとでは、焼け石に水であったのでしょうね。
このように――
お役所言葉というのは、すこぶる評判が悪いのですが――
中には、そうでもないものがありますよ。
そのことをお示しするには、
――人間国宝
を引き合いに出すのがよいでしょう。
「人間国宝」とは、伝統芸能や伝統工芸の世界で卓越した技術を習得し、それを後世に伝承しうる人たちのことを指します。
文科省付随の文化審議会で認定を受けるそうです。
「人間国宝」に認定された人には、技術継承を目的に助成金が交付されるといいます。
で――
この「人間国宝」という言葉――
僕は、以前から違和感を覚えていました。
(なんで人間を国宝扱いにしてるんだろう)
という違和感です。
国宝というのは、物ですよね。
よって、「人間国宝」には、「人だが物である」というニュアンスが感じ取れます。
「国宝人間」なら、いいのですよ。
「国宝のように貴重な人」というニュアンスを感じ取れますから――
が――
「人間国宝」というのではね――
基本的な発想としては「人間爆弾」とか「人間サンドバッグ」と似通っています。
まったく同じではないにせよ――
まあ、「人間機関車」みたいなユーモラスな表現もありますが――
こういうのは、むしろ例外的ではないでしょうか。
だから、
(お役所言葉ってのはダメなんだよな~)
などと思っていたら――
「人間国宝」というのは、いわゆるお役所言葉ではないそうです。
該当するお役所言葉は、
――重要無形文化財保持者
この呼称では、伝統的な芸能や工芸の技術体系が「無形文化財」と称され、それを習得した人が「保持者」と称されているのですから――
極めて良識的な発想に基づいているといえましょう。
少なくとも「人間国宝」のような違和感はありません。
もちろん――
かなり厳(いか)つい言葉ですから、世に広く親しまれるには不適ですがね。
だから、「人間国宝」が広く用いられているのでしょうが――
「国宝人間」ではダメなのですかね――
たしかに、これだと何となく感じが出てこない――
「無形文化財」を具現しているという意味合いが弱い――
「国宝芸人」ならいいのではないでしょうかね。
――国宝のように貴重な伝統芸能者ないし伝統工芸者
あ――
「芸人」というと、近年は「お笑い芸人」のことを指すのでしたね(笑
――国宝のように貴重なお笑い芸人
う~ん――
それって、どんな芸人さんなんだろう?(笑