子供の頃に何気なく読んでいたマンガのストーリーを思い出すと――
急に切なくなることがあるのです。
そのストーリーの陰に隠れていた人世の襞が、大人になって、わかるようになっていたからです。
(あ。あれって、そういうことだったんだね)
と――
そうやって気づいた人世の襞というのは――
大人になって読んだマンガのものとは、明らかに異質です。
大人になって読んだマンガに、そういう人世の襞をみつけても、
(うわ~、これ、絶妙なところを狙ってるよ~!)
などと穿ってしまう分だけで、いまひとつ心が動かないのです。
感動は、自分自身の心のメカニズムに由来するといってよいでしょう。
子供の頃に何気なく読んだマンガのストーリーが、原始的な記憶となって心に蓄えられ――
それが、数十年の年月をかけ、あるときにフっと変化をする――何らかの洞察を伴って――
このとき、感動は「数十年の年月」の重みを背負っています。
大人になって読んだマンガのストーリーが、何らかの洞察を即時に惹起するのとは、訳が違うでしょう。