生物学の目的の一つに、
――生物の多様性を知る。
というものがあります。
ここでいう「生物」とは、種としての生物だけではなく、個体としての生物や集団としての生物、あるいは、生物と環境との相互作用なども含みます。
要は、生物が絡む自然現象の全てです。
そのような現象の実態を知るというのが、生物学の目的の一つなのですが――
それとは別に、
――生物の仕組みを解き明かす。
という目的も、生物学にはあるのですね。
こちらのほうが、スローガンとしてはわかりやすいので、より魅力的な目的に思われるのですが――
重要性ないし本質性という点からいえば、どちらの目的も等価といってよいでしょう。
「生物の多様性を知る」という目的に「生物の仕組みを解き明かす」という目的に匹敵するくらいの価値があるといえるのは――
生物の本質が多様性にあるからです。
生物の仕組みを解き明かすのは結構なのですが――
その前に生物の本質が把握できていなければ、仕組みを解き明かすことは本当はやりようがないのですよ。
かといって、
――生物の多様性を完全に把握するまでは、生物の仕組みを解き明かそうとするべきではない。
という立場は過激すぎて、むしろ非建設的ですから――
とりあえず、
――生物の多様性を知ろうとしつつ、生物の仕組みを解き明かそうとしてみよう。
というところで妥結しているわけです。
そのような意味で――
「生物の多様性を知る」という目的は、生物学にとっては、絶対に看過できないものといえましょう。