子供の頃――
自然科学の入門書をよんで、そこに自然があると思っていました。
実際には、そこに自然などはなく――
あったのは、自然を理解しようとした人たちの思考や知識でした。
同じように――
恋愛の小説をよんで、そこに恋愛があると思ったり――
歴史の事典をよんで、そこに歴史があると思ったりしましたが――
実際には、そこに恋愛も歴史もなかったわけです。
書物に現実はありません。
現実を理解しようとした人たちの思考や知識がつまっているだけです。
書物は現実とは無縁です。
そのことを――
人は、子供のときは知りません。
だから、夢中で書物をよめる――
が、そうやって育った子供は――
やがて、書物に懐疑的になるでしょう。
書物を疑う大人になる――
それでいいのだと思っています。
それが――
人と書物との健全な関係なのだと思います。