――作家の風格
というのがあるとすれば――
それは随筆に現われるでしょう。
虚構や誇張が排除された随筆で、その作家のプライベートが重く深く書き込まれているときに――
その重さや深さが読者を惹き付けうるかどうか――
「重くて深いプライベート」というのは――
例えば、近親者との永遠の別離とか、過去に犯した重大な過ちとか――
もし、それらが読者を惹き付けうるのなら――
その作家には風格があるのです。
「重くて深いプライベート」は、通常、読者を怯ませます。
あるいは、辟易とさせる――
が――
真に注目されている作家は――あるいは、注目されることに慣れている作家は――
そうしたプライベートが普遍的な関心事として成立しえます。
作家として活動し続け、世間がそれを認知し続け――
その構図が十分に常態化していくときに――
その作家の「重くて深いプライベート」は文芸の素材として普遍化します。
それが作家の風格の証となるのです。