東北地方太平洋沖地震では、
――起こるはずのない地震が起こった。
ということで――
地震学の専門家の皆さんも衝撃を受けられたようです。
これまでの学界の主要の見解は、
――日本近海では、マグニチュード9クラスの巨大地震が起こるとは考えにくい。
というものでした。
その見解が大きく崩れたのですから――
衝撃を受けられるのは当然でしょう。
が――
学問の「衝撃」というのは、そんなに否定的なものではありません。
学界では、衝撃は活気を生みます。
そもそも――
なぜ「日本近海では、マグニチュード9クラスの巨大地震が起こるとは考えにくい」とされていたのか――
それは――
そのような地震が、これまでに実際に起こっていたとは考えられなかったからです。
地震学に限らず、学問の多くは、物事を経験則で論じます。
実際に起こったことが確認できない事象を想定したり予測したりすることは、原理的に不可能です。
が――
今回、実際にマグニチュード9クラスの地震が日本近海で起こったわけですから――
これからの地震学には、新たな論点がたくさん生まれるでしょう。
これまでにない理論や考察が受け入れられやすい状況となりました。
思考の枠組みが変わったのです。
いってみれば、
――サイエンスの醍醐味
が楽しめる状況になったといえます。
とはいうものの――
地震国・日本の国民にとっては、地震学における「サイエンスの醍醐味」は、そんなに歓迎はできないのですね。
思考の枠組みが変わるようでは、困るのです。
地震学が確たる知見を提供することで、社会は広く防災や減災に努めることができるのです。
人々の日常生活を支えているのは、サイエンスではありません。
テクノロジーです。
例えば――
僕らの暮らしを便利にしたのは電気工学ではなく、電力技術や電気産業です。
それら電力技術や電気産業は、電気工学の土台に乗っています。
その土台がぐらつけば、上に乗っているものは崩れます。
つまり――
「サイエンスの醍醐味」は、
――テクノロジーの脆弱性
と直結しているのです。