自分の意見を表明するよりも――
他人の意見を理解するほうが、ずっと高度な知性を要求します。
他人の意見を理解するということは――
他人の頭の中を理解して相手の心の内を洞察することです。
これが難しい――
自分の意見を表明するには、自分の頭の中を理解していれば、事足ります。
自分の心の内を洞察していれば、もっとよい――
まあ――
そこまで自分の心の内を自在に意識できるような人は、そう多くはありませんが……。
とりあえず、僕には無理ですが……(笑
とはいえ――
それらは、原理的には、そう難しくはありません。
自分の頭の中や心の内を覗くということは、強固な意志と自律の精神とがあれば、やってやれないことはないので――
ところが――
他人の頭の中や心の内を覗くのは、不可能です。
絶望的に無理――
その人に代わって物事を考えたり、感情を覚えたりすることは、絶対にありえませんので――
だから――
想像するしかないのです。
絶望的なまでに越えがたい峠の山道を、どうにかして越えようとする――
その峠を越すことは決してありえないにもかかわらず――
何よりも厄介なのは――
その道の険しさを、人は、たやすく忘れうる、ということです。
他人の頭の中や心の内のことなど、絶対にわかりっこない――
それなのに――
なぜか、わかったような気になってしまう――
それこそが、人知の限界なのでしょう。
他人の意見を理解するということは――
いくつもの脇道を見抜き、それらを的確に避けながら、峠道を登り続ける、ということです。
脇道があることにすら気づきにくいような曲がりくねった峠道を――
決して下り坂になることのない峠道を――