人の気持ちは変わりやすいものです。
だからこそ、思いはうねる――
気持ちが予想外に高まり、強い思いを結実させる――
そうした思いが、ときに詩になったり小説になったりします。
そのようにして書かれた詩や小説が――
その後、どうなっていくのか――
書き手の気持ちは、書き終わった直後にピークを過ぎ、しだいに弱まっていきます。
その弱まり方は、ときに尋常でありません。
激しい速さで衰えていく――
何しろ、
――作品は排泄物だ。
と公言する人がいるくらいですから――
が――
それら詩や小説を読んで心を動かされる人たちがいます。
そうした人たちの気持ちは、作品に触れた瞬間に高まって、強い思いを結実させます。
それが、ときに感想の言葉となって、書き手に跳ね返ることがあります。
――あの詩は、とても素晴らしい!
――この小説、とてもよかった!
など――
そうした言葉を受け、書き手は読み手と自分との気持ちとのギャップに気づかされます。
自分にとっては、作品は過去の遺物です。
そのときの自分の気持ちの高まりを全く覚えていないわけではないにせよ、リアルに思い出すことは難しい――
にもかかわらず、それら言葉の背後には、読み手の気持ちの高まりを感じとることができる――
そのときに、書き手は思うでしょう。
――この作品は、たしかに自分の下を離れていった。
と――
詩や小説は、人の気持ちのうねりという波動を伝える媒体です。
書き手は波源ではありますが――
ひとたび波動を発したら、波源に成す術はありません。
ただ波動が自分から遠ざかっていくのを感じとるだけ――
ごくたまに――
波動が跳ね返され、波源に戻ってくることがあります。
その反射波は、位相も振幅も異なっています。
波源にとっては、まったく新しい波動なのです。