買い物は、実際に買うまでは楽しくて――
いったん買ってしまったあとでは、そんなには楽しくありません。
ですから――
買い物の真の目的は、実は、物を手に入れることではなくて――
どの物を手に入れようかで、あれこれと思案をすることにあるのではないかとさえ、思います。
手に入れてしまったダイヤは――
しょせん石ころみたいな物なのですよね。
このような買い物の倒錯性を――
僕は、そんなに否定的には捉えたくないのです。
よいではありませんか。
買い物の真の目的が物を手に入れることにはなくても――
それだけ豊かで幸せな社会で暮らしているということです。
豊かで幸せな社会だからこそ――
どの物を手に入れようかで、あれこれと思案ができるのです。
貧しくて不幸せな社会ならば――
買い物は苦行の一種といってよいでしょう。
そういう社会では――
きっと手に入る物の種類は限られます。
限られた種類の物で、限られたおカネを換えていく――
必要な物を手にする度に、おカネはどんどん減っていく――
それは――
さながら自分に与えられた寿命を消費していくがごとしです。
誰しも歳をとるのが楽しくはないように――
必要な物を手にするためだけの買い物は、決して楽しくはないはずです。