長年にわたって争いごとに明け暮れて、ほとんど家庭をかえりみることのなかった夫が――
久しぶりに妻と顔を合わせ、
――苦労をかけたな。
と詫びを入れ――
そんな夫が立ち去るのを待って――
妻は、よよと泣き崩れる――
そういうシーンを、20年ほど前に、TVドラマでみたことがあるのです。
当時は、
(ちょっと陳腐なシーンだな~)
と思ったものですが――
今は、
(そんなに陳腐でもないのかな)
と思います。
妻は、たぶん嬉しくて泣いていたのではないのです。
おそらくは――
およそ嬉しさとは相容れぬ感情が込み上げて――
泣いていたのです。
「嬉しくて泣いている」とみていたから、陳腐なシーンにみえたのですね。
人の心は涙で割り切れるものでもありません。